2026年9月11日

結論:夜中に目が覚めるほどの肩の痛みは、五十肩でも腱板断裂でも起こります。夜間痛だけでは見分けられないため、「腕の力」と「他人に動かしてもらったときの可動域」を整形外科で確認することが大切です。
「夜、痛い肩を下にすると目が覚める」「五十肩だと思って様子をみているが、腕が上がらない」。肩の夜間痛はよくある症状ですが、病名は一つではありません。五十肩(肩関節周囲炎・凍結肩)、腱板断裂、石灰沈着性腱板炎、変形性肩関節症などが候補になります。
特に、転倒や重い物を持ったあとから急に腕が上がらない、反対の手で持ち上げれば動くのに自力では保てない場合は、単なる五十肩と決めつけないほうがよいでしょう。一方、徐々に痛みが始まり、髪を結ぶ・帯やエプロンのひもに手を回す動作まで硬くなった場合は五十肩を疑います。この記事では、似ている症状と違い、検査、治療のエビデンスを整理します。
夜間痛は五十肩と腱板断裂のどちらでも起こります
夜間痛とは、寝ている間や安静時に肩が痛み、寝返りや姿勢によって目が覚める状態です。炎症、肩峰下の圧迫、関節内圧の変化、同じ姿勢が続くことなど、複数の要因が関係すると考えられています。
腱板損傷と睡眠を調べた系統的レビューでは、対象研究の多くで夜間痛と睡眠障害が報告されています。ただし、夜に痛むから腱板断裂、という意味ではありません。五十肩でも炎症の強い時期には夜間痛が目立ちます。反対に、画像で腱板断裂が見つかっても痛みが軽い方もいます。痛みの時間帯だけで自己診断しないことが第一歩です。

五十肩でよくみられる症状
五十肩は、はっきりした大きな外傷がないのに肩の痛みと可動域制限が進む病態です。一般に炎症が強く痛みやすい時期、動きが硬くなる時期、徐々に回復する時期をたどりますが、経過や期間には個人差があります。「放っておけば必ず元どおりになる」とは限りません。
- 徐々に肩が痛くなり、夜もズキズキする
- 髪を洗う、服を着る、棚の物を取る動作が難しい
- 背中へ手を回しにくく、エプロンのひもを結びにくい
- 自分で動かしても、他人に動かしてもらっても硬い
- 特に肩を外へひねる動きが狭くなりやすい
2025年の五十肩診療ガイドラインでは、診断は問診と診察を中心に行い、超音波やMRIは補助として用いるとされています。また、糖尿病、甲状腺疾患、脂質異常症がある方では五十肩のリスクが高いことも示されています。
腱板断裂でよくみられる症状
腱板は、肩甲骨から上腕骨につながり、腕を上げる動きと肩関節の安定性を担う腱の集まりです。転倒、肩の脱臼、重い物を急に持つなどで切れることもあれば、加齢変化を背景に徐々に断裂することもあります。
- 腕を上げる途中で痛む、または下ろすときに痛む
- 上の棚へ手を伸ばす、荷物を持ち上げる力が弱い
- 夜、痛い側を下にして眠れない
- 自力では腕を上げにくいが、反対の手で支えると動く
- 転倒やけがの直後から急に腕が上がらなくなった
腱板断裂でも痛みのために肩全体が硬くなることがあり、五十肩を合併することもあります。また、断裂の大きさと痛みの強さは必ずしも一致しません。「腕が上がるから断裂ではない」「痛みが強いから大断裂」とは判断できません。

ほかに考える肩の病気
急に激しく痛み、ほとんど肩を動かせない場合は石灰沈着性腱板炎、転倒後なら骨折や脱臼も考えます。肩関節の軟骨がすり減る変形性肩関節症、上腕二頭筋腱の炎症、肩鎖関節の障害でも夜に痛むことがあります。
首の動きで肩から腕へ痛みやしびれが走る場合は、頸椎の神経が原因かもしれません。胸の圧迫感、息苦しさ、冷汗、吐き気を伴う肩・腕の痛みでは、心臓など肩以外の病気も除外する必要があります。肩だけを見るのではなく、発症の経緯と全身症状を確認します。
受診前セルフチェック
- 痛みは突然ですか、徐々に始まりましたか
- 転倒、脱臼、重い物を持った直後ですか
- 自分で腕を上げられますか
- 反対の手で支えると、より高く上げられますか
- 背中へ手を回す、肩を外へひねる動きも硬いですか
- しびれ、発熱、胸の症状はありますか
チェックの数で病名は決まりません。診察で伝えやすくするためのメモとしてお使いください。
診察と検査では何を確認しますか
診察では、痛む場所、発症時期、外傷の有無、仕事やスポーツ、睡眠への影響を聞きます。次に、自分で腕を動かす自動可動域と、力を抜いて診察者に動かしてもらう他動可動域を比べ、外旋などの硬さと腱板の筋力を確認します。一つの徒手検査だけで決めず、複数の所見を組み合わせることが重要です。
レントゲンでは骨折、脱臼、変形、石灰沈着などを確認しますが、腱板そのものは写りません。腱板断裂が疑われる場合は超音波やMRIが役立ちます。AAOSの2025年ガイドラインも、診察とレントゲンに加える検査としてMRI、MR関節造影、CT、超音波を有用としています。どの検査を選ぶかは、外傷の有無、診察所見、手術を検討するかで変わります。

今夜からできる負担の減らし方
痛い側を下にして寝るとつらい場合は、反対向きまたは仰向けを試します。痛い腕の肘から前腕の下に折ったタオルや枕を置き、腕の重みを支えると楽になることがあります。うつ伏せで肩を大きくねじる姿勢は避けましょう。
日中は、強い痛みを我慢して大きく回す、反動をつけて腕を上げるなどの運動は控えます。一方、けがや骨折が否定され、医師から動かしてよいと言われた場合、完全に動かさない状態が続くと硬さが進むことがあります。痛みが翌日まで増えない範囲で、肘や手を動かし、肩は指示された運動を少量から行います。
市販の鎮痛薬を使う場合は、腎臓病、胃潰瘍、心血管疾患、喘息、抗凝固薬、妊娠などによって適否が変わります。漫然と追加せず、薬剤師や医師へ確認してください。
運動療法・注射はどこまで効く?最新エビデンス
腱板関連肩痛のGRASP試験は708人を12か月追跡し、複数回の段階的運動プログラムは、一度の個別指導と比べて痛み・機能で明確な上乗せ効果を示しませんでした。これは「運動は無意味」という結果ではなく、回数を増やせば必ず良くなるわけではなく、適切な説明と続けられる運動が大切だと読めます。肩の状態や生活目標に応じて運動を調整します。
同試験では、ステロイド注射の長期的な利益は示されませんでした。AAOSの2025年ガイドラインも、局所麻酔薬を併用した単回のステロイド注射は短期的な痛み・機能改善の選択肢としていますが、繰り返し注射は腱の状態や将来の修復手術へ影響し得るため慎重な判断が必要です。
五十肩の2025年ガイドラインでは、関節内ステロイド注射が推奨され、理学療法や、状況によりステロイドを併用した関節包拡張術が役立つ可能性が示されています。一方、503人を比較したUK FROST試験では、早期の構造化理学療法、麻酔下授動術、関節鏡視下授動術の間に、12か月時点で臨床的に明確な優劣はありませんでした。病期、糖尿病などの持病、希望、治療の負担を合わせて選ぶ必要があります。
腱板断裂で手術を考えるのはどんなときですか
腱板断裂があっても、すべての方が手術になるわけではありません。痛みと機能はリハビリで改善することがあります。AAOSの2025年ガイドラインは、症状のある全層断裂に対する理学療法で患者報告アウトカムが改善し得る一方、非手術で経過をみる間に、5〜10年で断裂拡大、筋萎縮、脂肪変性が進む可能性があるとしています。
転倒などによる急性断裂で明らかな筋力低下がある、比較的活動性が高い、十分な保存治療でも仕事・スポーツ・睡眠に大きな支障が続く、断裂が大きい、という場合は手術相談を考えます。年齢だけで決めず、断裂の部位と大きさ、筋肉の状態、発症時期、利き腕、生活上の必要性を確認します。
すぐに、または早めに受診したい症状
緊急受診・早期相談ボックス
- 転倒・脱臼・重い物を持った直後から、腕を上げられない
- 肩の明らかな変形、強い腫れ、手の色や感覚の異常がある
- 発熱があり、肩が赤い・熱い・急速に痛みが増している
- 胸の圧迫感、息苦しさ、冷汗、吐き気を伴う肩や腕の痛みがある
- しびれや筋力低下が進む、または痛みで何日も眠れない
胸の症状を伴う場合は救急要請を検討してください。外傷後に腕を上げられない場合も、骨折・脱臼・急性腱板断裂を早めに確認します。緊急性がなくても、夜間痛が1〜2週間続く、日常動作が悪化する、鎮痛薬を繰り返し必要とする場合は整形外科へ相談しましょう。

よくある質問
Q1. 夜だけ痛いなら、まだ受診しなくても大丈夫ですか?
一晩の一時的な痛みなら負担を減らして様子をみることもあります。ただし、夜間痛が繰り返す、眠れない、腕の力が落ちた、可動域が狭くなった場合は診察を受けてください。
Q2. 腕が上がるなら腱板断裂ではありませんか?
上がる方でも部分断裂や小さな全層断裂が見つかることがあります。反対に、痛みや五十肩で腕が上がらない場合もあります。動くかどうかだけでなく、筋力、動く角度、痛みの出方を確認します。
Q3. 五十肩は自然に治るまで待てばよいですか?
自然に軽くなる方はいますが、長く可動域制限が残る方もいます。夜間痛が強い時期の疼痛管理と、病期に合う運動が大切です。強引なストレッチで悪化する場合もあるため、状態を確認しましょう。
Q4. MRIを撮れば、原因は必ず分かりますか?
MRIは腱板など軟部組織の評価に有用ですが、画像の変化が現在の痛みの主因とは限りません。問診と診察、レントゲンや超音波を含め、必要な検査を選びます。
Q5. 注射をすれば早く治りますか?
短期的に痛みを和らげ、運動や睡眠を助けることはありますが、病気そのものを必ず治す治療ではありません。注射する場所、回数、糖尿病などの持病、腱の状態を確認して判断します。
まとめ:夜間痛だけで病名を決めず、動きと力を確認しましょう
夜中に目が覚める肩の痛みは、五十肩でも腱板断裂でも起こります。五十肩では自動・他動ともに動きが狭くなりやすく、腱板断裂では自力で上げる力の低下が手掛かりになりますが、重なる症状も多く、診察と必要な画像検査で判断します。
院長の臨床的コメント
夜間痛の患者さんには、「自分ではどこまで上げられるか」「反対の手で支えれば動くか」「外へひねる動きまで硬いか」を確認します。五十肩と腱板断裂は症状が重なるため、年齢や痛みの強さだけで決めません。特に、けがのあと急に腕が上がらない場合は早めの評価が大切です。痛い運動を我慢して続けず、まず原因と病期を整理しましょう。
駅東ラッコ整形外科クリニック 院長 山中卓哉
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参考文献
- American Academy of Orthopaedic Surgeons. Management of Rotator Cuff Injuries. Evidence-Based Clinical Practice Guideline. 2025.
- Lee BC, et al. Clinical Practice Guidelines for Diagnosis and Non-Surgical Treatment of Primary Frozen Shoulder. Ann Rehabil Med. 2025.
- Hopewell S, et al. Progressive exercise compared with best-practice advice, with or without corticosteroid injection, for rotator cuff disorders (GRASP). Lancet. 2021.
- Rangan A, et al. Management of adults with primary frozen shoulder in secondary care (UK FROST). Lancet. 2020.
- Rotator cuff injuries with nighttime pain and sleep quality before and after treatment: a systematic review. 2022.
監修:駅東ラッコ整形外科クリニック 院長 山中卓哉
更新日:2026年9月11日
基本情報:本記事は一般的な医療情報を提供するもので、個別の診断・治療を代替するものではありません。症状や治療の適否は診察のうえで判断します。
