2026年9月09日

結論:立ち上がりの股関節痛や靴下の履きにくさは、変形性股関節症でよくみられる症状です。ただし、腰や腱の病気、骨折などでも起こるため、症状だけで自己診断せず整形外科で確認しましょう。
「椅子から立つ瞬間に股関節がズキッとする」「足を組めず、靴下を履くのが難しくなった」。このような変化は、股関節の動きが狭くなる変形性股関節症のサインになり得ます。特に脚の付け根(鼠径部)の痛みを伴う場合は、股関節そのものが原因である可能性が上がります。
しかし、同じ動作の困りごとは腰からくる神経痛、股関節外側の腱の障害、骨頭壊死、骨折などでも起こります。レントゲン上の変形が強くても痛みが軽い方がいる一方、変形が軽くても生活に支障が出る方もいます。大切なのは、画像だけでなく、痛む場所・動作・関節の動き・歩き方を合わせて判断することです。
変形性股関節症でよくみられる症状
変形性股関節症では、関節軟骨のすり減りや骨の変化などを背景に、痛みや動かしにくさが生じます。痛みは股関節の外側ではなく、鼠径部や太ももの前に出ることが多く、ときには膝の痛みとして感じることもあります。
- 椅子や床から立ち上がると脚の付け根が痛む
- 歩き始めは痛いが、少し動くと和らぐ
- 靴下・靴を履く、爪を切る動作が難しい
- 車の乗り降りや階段で股関節が痛む
- 足を外へ開きにくい、内側へひねりにくい
- 歩くと体が左右に揺れる、歩幅が小さくなる

なぜ立ち上がりや靴下で痛むのでしょうか
椅子から立つときは、曲がっていた股関節を伸ばしながら体重を支えます。関節の動きが狭くなっていたり、周囲の筋力が落ちていたりすると、動き始めに負担が集中して痛みやすくなります。
靴下を履くには、股関節を深く曲げ、外へ開き、ひねる動きが同時に必要です。変形性股関節症では特に内旋などが制限されやすいため、膝を胸へ寄せにくい、足先へ手が届かないという変化が起こります。痛みを避けるために体を無理にねじると、腰や反対側の股関節までつらくなることがあります。
受診前セルフチェック
- 痛む場所は鼠径部・太ももの前ですか
- 立ち上がり、歩き始め、階段で痛みますか
- 靴下、靴、足の爪切りが難しくなりましたか
- 車の乗り降りで脚を手で持ち上げますか
- 歩ける距離が短くなった、または跛行がありますか
- 安静時や夜間にも痛みますか
当てはまる数だけで病名や重症度は決まりません。以前よりできない動作が増えた、痛みが数週間続く、歩行距離が短くなった場合は受診の目安です。
股関節症以外の病気との見分け方
痛む場所は大切な手掛かりです。鼠径部や太もも前の痛みは股関節内の病気を疑います。股関節の外側を押すと痛む、痛い側を下にして寝られない場合は、殿筋腱障害や大転子部痛症候群なども候補です。腰痛とともに脚のしびれや電気が走るような痛みがある場合は、腰椎や神経が原因かもしれません。
ほかにも、関節唇損傷や大腿骨寛骨臼インピンジメント、炎症性関節炎、大腿骨頭壊死、鼠径部周辺のヘルニアなどがあります。転倒後の痛みでは、歩けていても骨折が隠れていることがあります。「年齢のせい」「軟骨が減っただけ」と決めつけず、経過と診察所見を整理することが重要です。

診察と検査では何を確認しますか
診察では、痛みが始まった時期、きっかけ、痛む場所、歩ける距離、靴下や階段などで困る動作を確認します。股関節の曲げ伸ばしや内外への回旋、筋力、脚の長さ、歩き方を評価し、腰や膝からくる痛みも調べます。
変形性股関節症が疑われるときは、一般にレントゲンで関節の隙間、骨棘、骨の硬化や変形などを確認します。典型的な症状とレントゲン所見が一致すれば、MRIが必ず必要なわけではありません。一方、レントゲンで説明しにくい強い痛み、骨頭壊死・関節唇損傷・不顕性骨折などが疑われる場合は、MRIやCTを追加することがあります。
最初にできる対策:動かなさすぎにも注意
痛い動作を何度も繰り返す必要はありませんが、完全に動かさない状態が続くと筋力や持久力が落ち、かえって立ち上がりが難しくなることがあります。まずは次のように負担を調整します。
- 低い椅子を避け、座面を少し高くする
- 長時間同じ姿勢を続けず、短い休憩を入れる
- 靴下は長柄の補助具を使い、無理に深く曲げない
- 痛みの少ない範囲で歩行や関節運動を続ける
- 片側が痛む場合、必要に応じて反対の手で杖を使う
運動後の痛みが強く翌日まで残る、跛行が増える、可動域が急に悪化する場合は負荷が合っていない可能性があります。自己流で強く伸ばし続けるより、現在の状態に合う方法を確認しましょう。
運動療法はどのくらい効く?最新研究の読み方
AAOS(米国整形外科学会)の2023年診療ガイドラインは、軽度から中等度の症候性股関節症に対し、痛みの軽減と機能改善を目的に理学療法を検討できるとしています。ただし「運動すれば軟骨が元に戻る」「全員が大きく改善する」という意味ではありません。
2026年のCochraneレビューは18研究・1,368人をまとめ、運動は通常診療や治療なしと比べ、治療直後の痛みと身体機能を平均でわずかに改善する一方、その差は臨床的に大きいとは限らないと報告しました。効果には個人差があり、運動だけで十分な方もいれば、薬や手術を含む別の選択肢が必要な方もいます。
2024年の160人を対象とした比較試験では、12週間の高負荷漸増筋力トレーニングは神経筋運動より優れていませんでした。つまり、誰にでも一つの「最強メニュー」があるとはいえません。可動域、殿筋・体幹・大腿筋の筋力、バランス、生活目標に合わせ、続けられる運動を選ぶことが現実的です。
薬・注射・手術はどう選びますか
痛みで動けない時期には、内服薬や外用薬を使うことがあります。AAOSは禁忌がなければ経口NSAIDsが痛みと機能の改善に有効としていますが、腎臓病、胃腸障害、心血管疾患、抗凝固薬の使用などによっては適さないため、持病と併用薬の確認が欠かせません。
股関節内へのステロイド注射は短期的な痛み・機能の改善を期待できる場合がありますが、感染や急速進行性股関節症などのリスクも踏まえて適応を判断します。一方、同ガイドラインは股関節症に対するヒアルロン酸関節内注射について、プラセボを上回る痛み・機能改善を示さないとして推奨していません。
保存治療を行っても痛みが強く、睡眠・仕事・歩行などに大きな支障が続く場合は人工股関節置換術を検討します。2026年の中等度〜重度股関節症120人の無作為化試験では、人工股関節手術と術後リハビリは自主運動のみより12か月後の痛み・機能を大きく改善しました。ただし、これは手術適応のある進行例の研究であり、軽い症状の方にすぐ手術を勧める根拠ではありません。

すぐに、または早めに受診したい症状
緊急受診・早期相談ボックス
- 転倒後に立てない、脚へ体重をかけられない
- 突然の激痛、脚が短く見える、明らかな変形がある
- 発熱があり、股関節周辺が赤い・熱い・急に痛む
- 安静時や夜間も強く痛み、短期間で悪化している
- がん治療歴、ステロイド長期使用などがあり新しい強い痛みが出た
これらは骨折、感染、骨頭壊死などを除外する必要があります。特に転倒後に歩けない場合は、翌日まで様子をみず救急受診を検討してください。緊急性がなくても、痛みが2〜4週間続く、日常動作が徐々に難しくなる、鎮痛薬を繰り返し必要とする場合は整形外科へ相談しましょう。

よくある質問
Q1. 靴下が履きにくいだけで変形性股関節症ですか?
いいえ。股関節の動きが狭いサインにはなりますが、腰の病気、筋や腱の問題、体幹の柔軟性低下などでも起こります。鼠径部痛や歩行の変化がある場合は診察で確認しましょう。
Q2. レントゲンで変形があれば、必ず痛くなりますか?
必ずではありません。画像の変形と痛みの強さは一致しないことがあります。治療はレントゲンの見た目だけでなく、困っている動作や生活への影響を基準に考えます。
Q3. 股関節が痛いとき、ストレッチを強く行ってよいですか?
強い痛みを我慢して伸ばすのは避けてください。痛みの少ない範囲で行い、翌日に悪化する場合は量や方法を見直します。骨折や炎症が疑われる時期は運動より診断が先です。
Q4. 股関節症でも歩いたほうがよいですか?
多くの場合、痛みを増やさない範囲の活動は大切です。ただし、歩くたびに跛行が強くなる、翌日まで痛みが残る場合は距離や速度を調整し、自転車など別の運動も検討します。
Q5. 手術はできるだけ先延ばしにしたほうがよいですか?
一律にはいえません。保存治療で生活できるなら継続できますが、進行した症状で睡眠・仕事・歩行が大きく損なわれている場合、漫然と我慢することが最善とは限りません。年齢、持病、希望を含めて専門医と相談します。
まとめ:生活動作の変化は股関節を確認するきっかけです
立ち上がりの痛みや靴下の履きにくさは、変形性股関節症を疑うきっかけになります。ただし、それだけで診断はできません。痛む場所、関節の動き、歩行、必要な画像検査を組み合わせ、ほかの病気を除外してから治療を選びます。
院長の臨床的コメント
「靴下が履きにくい」という訴えは、股関節の可動域を知る大切な手掛かりです。ただし、変形があるから痛い、痛いからすぐ手術、という単純な話ではありません。診察では鼠径部の痛み、股関節の回旋、歩き方、腰や膝の所見まで確認します。困っている動作を具体的に教えていただくと、治療目標を立てやすくなります。
駅東ラッコ整形外科クリニック 院長 山中卓哉
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参考文献
- American Academy of Orthopaedic Surgeons. Management of Osteoarthritis of the Hip. Clinical Practice Guideline. 2023.
- Hall M, et al. Exercise for osteoarthritis of the hip. Cochrane Database Syst Rev. 2026.
- Kjeldsen T, et al. Progressive Resistance Training or Neuromuscular Exercise for Hip Osteoarthritis. Ann Intern Med. 2024.
- Talonpoika A, et al. Total hip arthroplasty compared with conservative treatment in moderate-to-severe hip osteoarthritis. Bone Joint J. 2026.
監修:駅東ラッコ整形外科クリニック 院長 山中卓哉
更新日:2026年9月9日
基本情報:本記事は一般的な医療情報を提供するもので、個別の診断・治療を代替するものではありません。症状や治療の適否は診察のうえで判断します。
