「テニス肘」という言葉を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。実際にテニスをしていなくても発症することが多く、日常生活や仕事にも大きな影響を与える疾患です。正式名称は「上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)」といいます。
今回は、テニス肘の原因や症状、診断、治療法、そして予防のポイントについてわかりやすくまとめます。

目次
テニス肘とは?
テニス肘は、肘の外側に痛みが生じる疾患です。主な原因は、手首を反らす筋肉(特に短橈側手根伸筋:ECRB)の使いすぎによる腱の変性です。
物をつかんで持ち上げる、タオルを絞る、パソコン作業を長時間行うなど、手首を繰り返し使う動作によって負担が蓄積し、腱の付着部に微細な損傷が起こります。
名前に「炎」とついていますが、慢性期ではいわゆる炎症というよりも、腱の変性(angio fibroblastic dysplasia)という状態が中心であることが知られています。
どんな人に多い?
一般住民の約1〜3%にみられ、特に40〜60歳代に多いとされています。男女差はほとんどありません。
リスク因子としては:
- 手首を反らす動作や前腕の回内・回外動作の反復
- テニスなどのラケットスポーツ
- 重い物を扱う仕事
- 肥満
- 喫煙
- 肩の腱板断裂
- ステロイド注射の繰り返し
などが挙げられます。
テニス選手では30〜50%に発生するとされ、特にアマチュアに多いことも特徴です。
主な症状
代表的な症状は「肘の外側の痛み」です。
特に次のような動作で痛みが強くなります。
- ペットボトルのふたを開ける
- タオルを絞る
- フライパンを持ち上げる
- ドアノブを回す
- パソコンのマウス操作
初期は動作時のみの痛みですが、悪化すると安静時にも痛みが出ることがあります。

診断方法
診断は主に問診と診察で行います。
代表的なテスト
- Thomsenテスト:手首を反らした状態で抵抗をかける
- 中指伸展テスト:中指を伸ばして抵抗をかける
- Chairテスト:肘を伸ばしたまま椅子を持ち上げる
これらで肘の外側に痛みが出れば、テニス肘が疑われます。
画像検査ではMRIや超音波検査が用いられることがありますが、画像所見だけで診断は確定せず、臨床症状との総合判断が重要です。
治療法
テニス肘の治療の基本は保存療法です。約70〜90%は1年以内に自然軽快するとされています。
① 生活指導
- 痛みの出る動作を避ける
- 物を持つときは手のひらを上に向ける(回外位)
- 負担の大きい作業を調整する
完全安静ではなく、「負担を減らす」ことが重要です。
② 薬物療法
- 湿布や塗り薬(NSAIDs)
- 必要に応じて内服薬
短期的な痛みの緩和には有効ですが、長期的な改善効果は限定的です。
③ 装具療法
テニス肘バンドや手関節スプリントを使用し、腱への負担を軽減します。
症状の緩和には役立ちますが、長期予後を改善するという明確な証拠はありません。
④ リハビリテーション
非常に重要なのがストレッチと筋力強化です。
- 手首伸筋群のストレッチ
- 段階的な筋力トレーニング
- 肩や体幹を含めた全体的な機能改善
腱の修復を促進する効果も期待されています。近年ではリハビリの有効性が高く評価されています。
⑤ ステロイド注射
即効性がある一方で、長期的効果は乏しいとされています。
さらに、繰り返し注射すると腱断裂や靱帯損傷のリスクが高まるため、強い痛みで日常生活に支障がある場合の単回使用が推奨されます。

⑥ PRP療法・体外衝撃波療法
- PRP療法:自己血液から抽出した成分で組織修復を促進
- 体外衝撃波療法(ESWT):刺激により疼痛緩和と再生を促す
慢性期の症例で選択されることがありますが、保険適用や有効性には一定の制限があります。

手術が必要になるケース
保存療法で改善しない症例は約5〜10%です。
慢性化し、腱の変性が進行している場合は手術が検討されます。
手術の種類
- 直視下手術
- 関節鏡視下手術
現在は鏡視下手術が広く行われており、関節内の病変も同時に確認・治療できるメリットがあります。
術後は早期からリハビリを開始し、段階的に筋力を回復させます。
病期に応じた治療が重要
テニス肘は、
- 急性期(炎症・微細断裂)
- 亜急性期(修復可能)
- 慢性期(変性・瘢痕化)
と病期によって状態が異なります。
急性期は安静中心、
亜急性期はリハビリ中心、
慢性期は手術も検討、
と段階に応じた対応が重要です。
予防のポイント
- 正しいフォームの習得(特にテニス)
- 作業環境の見直し(キーボードやマウスの高さ)
- 手首だけでなく肩・体幹の強化
- ストレッチ習慣の継続
- 使いすぎを避ける
「痛みを我慢し続けない」ことも大切です。
まとめ
テニス肘は中年期に多い肘の使いすぎによる障害です。多くは保存療法で改善しますが、適切な時期に適切な治療を行うことが重要です。
特にリハビリテーションの役割は大きく、単なる安静ではなく、正しい負荷管理と運動療法が回復の鍵になります。
もし肘の外側に違和感や痛みを感じたら、早めに医療機関で相談しましょう。悪化を防ぎ、早期回復につながります。
引用文献:小笹泰宏、上腕骨外側上顆炎、日手会誌(J Jpn Soc Surg Hand), 第 41巻 第3号 155-162,2024
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